"マリー・アントワネット(上/下)" Stefan Zweig 著
歴史は得てして、凡庸な人物に命運を託すことがある。単に無思慮で、はしゃぎ好きな娘を、王党派は偉大な聖女に祭り上げ、共和党派は堕落女と罵声を浴びせる。フランス革命という急進的な時代にあって、大衆を敵に回し、魔女狩りのごとく処刑されていく命運とは。ハプスブルグ家の皇女という誇りが、そうさせたのか。民衆は魔女の戯言に同情するほど余裕はない。世論の捌け口とされるがゆえに、今日英雄として担がれた人物が、明日に...
View Article"不思議宇宙のトムキンス" George Gamow, Russell Stannard 著
懐かしやトムキンス!物理学を専攻した者で、トムキンス冒険物語の存在を知らぬ者はいないだろう。たとえ読んだことがなくても......
View Article"人類の星の時間" Stefan Zweig 著
ほんの一瞬に過ぎ去るからこそ輝いて見える...毎日が栄光に満たされていれば、退屈病に襲われる。無数の凡庸人で溢れているからこそ、一人の天才が出現する。芸術精神もまた、地道な思考の繰り返しの中から、霊的なものに憑かれる一瞬によって創造される。閃きってやつだ。そして、無限の坦々たる時間が流れ去った後、歴史に刻まれる一瞬が生まれる。平凡の内に一瞬にして宿る天才的資質とは、歴史のみが発明しうる矛盾とでもして...
View Article"昨日の世界(I/II)" Stefan Zweig 著
歴史とは、客観的に語られてこそ、より輝きを放つもの。だが、ツヴァイクは、あえて自我を主役に据えた歴史小説を綴る。大量殺戮の世紀と化した20世紀の証言者という使命を背負うかのように...しかしながら、自我を綴ることは危険だ。自ら無へ帰することになりかねない。「私が物語るのは、私の運命ではなく、ひとつの世代全体の運命である...」こう記した二年後、亡命先のリオ・デ・ジャネイロで、再婚して間もない夫人と共...
View Article壊れかけの Raid
いまだ、ハードディスクがいきなり壊れるという経験がないのは、幸運であろう。この手の呪いは、なんらかの前兆がある。不良セクタが見つかるやら、アクセスのリトライが増えるやら、異音が鳴り始めるやら...そして今回は、BIOS がエラーを吐く... "AHCI PORT0 Device Error"Win7(64bit)でも... "ハードディスクの問題が検出されました"モノは、DELL Studio...
View Article"ラファエロの世界"池上英洋 著
1520年...美術の教科書では、この年をもってルネサンス期の終焉とするそうな。なんのことはない、ラファエロが亡くなった年である。彼を盛期ルネサンスとマニエリスムのどちらに区分するかは微妙であろう。既にバロック様式を体現していたとする意見も耳にする。37歳という早すぎる死にも、係わりがあるかもしれない。芸術家として成熟を極めた年齡とは言い難いのだから。いずれにせよ、芸術様式がある年をもって突然変化す...
View Article"ラファエロ"若桑みどり 著
「ラファエロには、ただ一つの傑作というものはない。彼のどの作品にも、"刹那よ、とどまれ!"ということはできない。彼は水であり、河である。それも、澄んだ河である。まわりのものを誰よりもみごとに映して見せる、鏡のごとき河である。彼が本当に持っていたもの、それは透明さなのだ。それは、自己の色を持たないということを意味している。」ラファエロは、盛期ルネサンスの三大巨匠の中でも地味な存在、いや、他の二人があま...
View Article"無形化世界の力学と戦略(上/下)"長沼伸一郎 著
本棚を掘り起こしていると、とんと覚えのないヤツを見つけた。「物理数学の直観的方法」の著者が、人間社会の力学をミリタリーバランスの観点から定量的に語ろうというのである。我が家で数十ページほど立ち読みしてみると、これがなかなか!購入履歴を遡ると、およそ十年前に買ったことになっている。記憶力がないということが、いかに幸せであるか...そういえば、政治家の資質には、理系出身者が相応しいと考えていた時期があっ...
View Articleこけた...
証拠物件1:昨年は午年ということで、跳ね馬のごとく駆け抜けるつもりであったが、暴れ馬のごとくこけた!バイクの修理代が痛い...今年は、羊のごとくおとなしくするつもりでいる。おっと!夜の社交場方面から初詣のお誘いが...
View Article暴走主義
暴走好きな人間をこしらえたのは誰か?やはり神も暴走好きであったか...人はよく、権利だ!義務だ!責任だ!なんてことを言う。だが、そんなものは都合よく解釈されるだけのこと。無駄、無意味、無価値といったものもそうだ。そして、正義ですら解釈される。この方面で、人類はいまだ普遍性なるものを知らない。パスカルは言った... 人は良心によって悪をするときほど、十全にまた愉快にそれをすることはない......
View Article理性の検閲官ども
なぜ、人は群れるのか...人との付き合いに飽きれば、自然との戯れを欲し、いつも何かと接していないと落ち着かない。それゆえに、自我を肥大化せずにはいられないのか。知識や美徳を求めるのも、詫や寂を欲するのも、その類いであろうか。人はみな、寂しさに耐えながら生きている。ただ、それだけのことかもしれん...人間には、心地良いものに群れる習性がある。虫が灯りに引き寄せられるように。都合の良い解釈で集まり、似た...
View Articleメタ化社会か、メタメタ化社会か
主体を観察しようとすれば、客体の眼を要請し、互いに立場を交換しあうことになる。客観だけでは心許無い、ましてや主観だけでは危険だ。主体が魂となれば尚更。そこで、主体が主体を導くような仕掛けを欲する。こいつは、既に自己矛盾に陥ってやがる。魂の持ち主は、永遠に己を知ろうとし、また永遠に己を知り得ないということか...あらゆる学問分野で、それ自体を研究対象とするための「メタ(meta)」という用語を見かける...
View Article"言語研究とフンボルト"泉井久之助 著
ここに、フンボルト人間論という視点から言語学を語ってくれる書がある。それは、カントの批判哲学に触発されたドイツ精神史の一物語、といったところであろうか...ヴィルヘルム・フォン・フンボルトは、「一つの言語」という名辞を初めて使った人だそうな。この用語には、全人類の普遍言語を模索するという壮大な構想が伺える。言語が精神の投影だとすれば、言語の発達は精神の成熟度の指標となろう。本書で語られる言語哲学には...
View Article"言語と精神" Noam Chomsky 著
泉井久之助著「言語研究とフンボルト」によると、ノーム・チョムスキーはフンボルトの路線にあり、またヒュームの説くところに似ていると紹介される。それは、カントの批判哲学に継承される直観主義的な学者だということである。幼児には、生まれつき言語を習得する能力が具わっている。生まれたばかりの餓鬼には、純粋な共通観念のようなものが見えるのだろうか?もし、この世に普遍言語なるものが存在するとしたら、プラトンが唱え...
View Article"死ぬ瞬間 死にゆく人々との対話" Elisabeth Kübler-Ross 著
古来、死は忌み嫌われてきた。これからも、ずっとそうだろう。死と対峙する心構えについては、偉大な哲学者たちが様々な処方箋を提示してきた。ソクラテスは魂の不死を唱え、キリストは死を霊魂の肉体からの解放とし、神に近づくための昇天とした。あるいは、絶望的な限界を生きることで真の自己実現を目指し、生と死、希望と悲惨を一体化するという考え方もあれば、死を無意味な偶発的事故として徹底的に無視するという考え方もある...
View Article